※ 掲載されているデータの無断使用・無断転載を禁じます。「アンケート調査データを使用したい方へ」の手順を必ず取ってください。

2011年度は、第5回首都圏調査および第6回原子力学会員調査を実施しました。

調査概要


第5回首都圏調査

名 称:第5回 エネルギーと原子力に関するアンケート
時 期:2012年1月6日~1月23日
対 象:首都圏30km圏内
方 法:割り当て留め置き法(地点別・性年代別回収条件は下表を参照)
回収数:500名


第6回学会員調査

名 称:第6回 エネルギーと原子力に関するアンケート
時 期:2012年1月5日~2月6日
対 象:日本原子力学会員
方 法:無作為抽出 1400名に対し、郵送調査
回収数:611名(回収率43.6%)


分析結果の概要


福島事故に係る論点

a) 福島事故の影響について
 首都圏住民および原子力学会員の双方とも、多くの人が、福島事故による今後の影響を個人的・社会的の両面から認識している。また、個人的な影響よりも、社会的な影響を認識する人が多い。この論点において、首都圏調査と学会員調査を比較すると、首都圏住民よりも、原子力学会員のほうが影響を認識している数が多い。
 除染に関して、首都圏住民は技術的に不可能だと思っている。一方、原子力学会員は、技術的には可能だと認識している割合のほうが大きい。この論点では、首都圏住民と原子力学会員との差が大きい。

b) 福島事故に係る情報について
 福島事故に係る情報獲得の状況について、福島事故発生当時、多くの首都圏住民はテレビ、新聞を以前と比べてしっかりと見ていた。日常で話題にした人も6割近い。インターネットで調べた人は3割程度。一方、インターネットで発言した人は5%程度である。
 一方、原子力学会員は、テレビ、新聞と同じくらい、インターネットも関連情報の獲得に利用していた。書籍利用は3割程度である。なお、インターネットでの発言は1割程度であった。
 ほとんどの首都圏住民は、福島事故に関する情報開示が十分でないと認識している。原子力学会員も、情報開示が十分でないと認識している層のほうが多い。
 首都圏住民の信頼できる情報源としては、科学記者・論説委員、大学教授・専門家、次いで国際機関であり、国や事業者、日本原子力学会を含むその他の情報源への信頼は1割に満たない。誰の話も信頼できないという人が3割強存在する。
 一方、原子力学会員の信頼できる情報源は、国際機関が抜けて高く、次いで大学教授・専門家、日本原子力学会と続く。原子力安全・保安院や電力会社から出される情報への信頼も大きい。
 首都圏住民は、原子力学会員が信頼するほどに、国際機関からの情報を信頼しているわけではないこと、また、首都圏住民は結局大学教授・専門家からの情報を信頼していることが興味深い。

c) 福島事故の予見性について
 首都圏住民において、福島事故以前に、同様の事故が起こると思っていた人より、思っていなかった人のほうが多い(思っていた:25%程度 思っていなかった:6割強)。また、同様の傾向が原子力学会員にも見られ、この傾向は原子力学会員のほうが強い(思っていた:2割弱 思っていなかった:7割強)。
 参考までに、この結果を前年度までの調査(100年間での原子力発電施設からの放射能漏れによる一般人死亡発生の可能性)と比べると、昨年度までの事故発生を予測する回答者の割合は、福島事故が起こると思っていた回答者の割合よりも多いことがわかる。昨年度までは、原子力発電所の事故に対して現実感を持ってなく、漠然とした不安感の一環としてのイメージに基づいて回答していたが、2011年度は実際に福島事故を経験し、事故に対するイメージが具体的になったことが、当該設問の回答の差異として現れた(福島事故は、以前に想像していた事故イメージ以上のインパクトを持っていたため、2011年度調査では「思っていなかった」側の回答が増えた)と推測される。一方、原子力学会員の認識は同程度である。


放射能や放射線に係る論点

a) 放射能や放射線に対する認識について
 首都圏住民において、そのおよそ半数が、放射能・放射線について、よくわからないと回答している。
 現状の放射能・放射線の影響について、受け入れられる人が3割強、受け入れられない人が25%程度であり、4割以上の人が判断を保留している。現状に関する認識については、かなり冷静な判断をしていると考えられる。一方で、身のまわりの放射能・放射線の影響が不安な人が6割以上。将来世代への影響をなくしてほしい人は9割弱にも達する。
 この認識については、原子力学会員とのギャップは大きい。

b) 安全基準について
 安全基準は、首都圏住民から、その十分性・意図性の両面で信頼されていない。この点については、原子力学会員とのギャップも大きい。

c) 放射能や放射線に関する情報について
 首都圏住民は放射線・放射能の情報について、正確性・わかりやすさの両面を強く要望している。原子力学会員もその大切さは認識している。
 首都圏住民の7割弱が、放射能・放射線について、自ら勉強しなければならないと感じている。また、国や専門家に大丈夫と言ってほしい回答者は、4割強であり、どちらともいえない人も4割程度存在している。これは、安心と言ってほしい半面、同時に規制基準への不信感があり、もし大丈夫と言われたとしても、それを信じられるだろうかと感じることが多いことを示していると考えられる。


首都圏住民と専門家の考え方の比較分析および経年比較

a) 社会全般に関する関心・不安について
 2011年度調査において、首都圏住民が関心を持っている事柄として、「自然災害」「政治や経済(注:これは前年度までは「政治」「経済・物価」と分割していた)」「病気」「原子力施設の事故」「地球温暖化などの環境問題」などが挙げられる。特に「原子力施設の事故」については、今年度の上がり幅が大きい。「自然災害」は昨年度までも大きな関心を持つ項目ではあったが、今年度はさらに大きな関心を持つようになっている。また、「放射性廃棄物」「原子力」に関する関心も今年度は大きく上昇している。
 原子力学会員が関心を持っている事柄として、「原子力」「資源やエネルギー」「科学技術」「政治や経済」「原子力施設の事故」「地球温暖化などの環境問題」「放射性廃棄物問題」が挙げられる。「政治や経済(注:これは前年度までは「政治」「経済・物価」と分割していた)」「原子力施設の事故」「自然災害」で関心の上昇が見られるものの、それほど大きな変化ではない。
 また、首都圏住民が特に不安を感じる事柄として、「政治や経済」「自然災害」「原子力施設の事故」「病気」などが挙げられる。特に「原子力施設の事故」については、今年度の上がり幅が大きい。「自然災害」は昨年度までも大きな不安を感じる項目ではあったが、今年度はさらに大きな不安を持つようになっている。また、「放射性廃棄物」「原子力」に関する不安も今年度は大きく上昇している。
 原子力学会員が特に不安を感じる事柄として、「政治や経済」「資源やエネルギー」などが挙げられる。特に、「政治や経済(注:これは前年度までは「政治」「経済・物価」と分割していた)」については、今年度大きく不安が上昇している。「資源やエネルギー」「原子力施設の事故」「自然災害」で不安の上昇が見られる。
 今年度の変動は、東日本大震災と、それに引き続いた福島事故、さらには政治的混乱が影響を及ぼしていると考えられる。
 首都圏住民と原子力学会員を比べると、首都圏住民には「資源やエネルギー」に関する関心・不安がそれほど大きく見受けられない。福島事故の影響と資源・エネルギーとの関連性が明確には認識されていない様相が伺える。また、原子力学会員に関しては、今年度になって「政治や経済」についての不安が大きく出現し、この点に関して首都圏住民とのギャップが小さくなっている。

b) 原子力の利用・有用性について
 首都圏住民において、前年度までと比べて、原子力発電の「利用」が減少し、「廃止」が増加した(利用20%強、廃止50%弱、中間30%)。判断を保留している中間層もそれなりの割合で存在する。
 また、原子力発電の有用性の認識も減少している。地球温暖化への貢献等の認識にはそこまで大きな減少がみられないものの、代替電力があるという認識、将来のためにならないという認識が大きくなり、結果として有用性の認識の減少につながっているものと考えられる。
 関連して、2011年度は今まで以上に新エネルギーへの期待が増大した。新エネルギーの割合は、20年後には3割程度と予想している。一方、原子力発電は20年後には3割をきると予想する。
 原子力学会員においては、大勢は、原子力発電の「利用」の認識、原子力発電の有用性の認識を示している。しかし、前年度までと比較するとその割合も減少している。
 地球温暖化への貢献、代替電源の困難さ、再処理による燃料確保の有用性との認識は昨年度までと引き続き高位に安定した意見として見られる。同時に、将来における原子力発電の役割を低く見積もるようになっている。また、新エネルギーの開発の必要性を認めつつあるが、20年後における原子力発電の代替は火力発電ではないかと考えている。
 首都圏住民と原子力学会員を比較すると、原子力発電に対する利用-廃止の立場に大きなギャップが生まれた。原子力発電の有用性のうち、地球温暖化への貢献については、その程度に差はあるものの、考え方の方向性に大きなずれはない。
 また、将来の原子力発電は、その割合が減少するだろうという意見について、首都圏住民と原子力学会員で方向は同じである。しかし、代替エネルギーの有無、将来のエネルギーについては大きなギャップが存在し、首都圏住民は新エネルギーに期待する一方、原子力学会員は代替できるのは火力発電であると考えている。

c) 原子力の安心/安全/信頼について
 原子力発電の安心-不安の意見について、前年度まで首都圏住民のおよそ半数が不安との意見であったが、2011年度は7割程度が不安と回答し、大幅の増加となった。具体的な事例については、長期間運転している発電所の安全性低下や、地震に対する原子力発電所の危険性という認識は、前年度までも大きかったが、2011年度は急激に大きくなった。前年度まで判断を保留していた層をかなりの割合で取り込んだといえる。
 原子力学会員においても、前年度と比べると、安心という意見が減り、およそ6割にとどまった。長期間運転している発電所の安全性低下に関しても、これを否定する者が多かったが、2011年度はその割合が逆転した。また、地震に対して原子力発電所は危険という認識に対して否定的だが、2011年度はその程度が減少した。
 とはいえ、依然首都圏住民と原子力学会員の意識には大きなギャップが存在する。
 原子力に携わる人たちの安全確保の意識や努力を信頼については、首都圏住民において大幅に低下した。前年度までは徐々に信頼側に変化していたが、その傾向は急激に変化した。原子力学会員においては大勢は信頼側であるが、前年度までと比較すると、その度合いが減少している。

d) 高レベル放射性廃棄物の処分について
 首都圏住民において、高レベル放射性廃棄物の処分は早急に実施しなければならないとの認識が増加しており、同認識に対する前年度までの推移が加速している。同時に、高レベル放射性廃棄物の最終処分場決定は困難と思われている。この項目については、前年度までと比べると、「わからない・しらない」という回答者が減っている。放射性廃棄物への一般関心・一般不安も増加していることと整合性の取れた結果であるといえる。
 原子力学会員においては、高レベル放射性廃棄物の処分は早急に実施しなければならないとの認識で高位定常状態といえる。また、最終処分場決定に関して、前年度までも困難と認識されていたが、2011年度はこの認識が増大した。

e) 原子力学会員の平均的な意識
 本調査では原子力学会員のみへの質問項目を設定していたが、これを用いて、原子力学会員の平均的な意識をまとめると、以下のようになろう。

 [福島事故は、自然災害というよりは人災であった]との認識も否定できない。しかし、原子力発電の安全確保には、[推進と規制を切り離し]、[立地地域住民の避難を伴う事態も考慮する]ことが重要であることは言うまでもなく、これらを行うことによって、[今後、原子力発電の安全確保は可能であり]、[未来を危険にさらすものではない]と考えている。  また、原子力発電は[地球温暖化対策に有効なエネルギー源]であり、もし[節電したとしても、必要]となるものであると考えている。したがって、[原子力発電の廃止は感情論]に過ぎず、[今後も原子力発電を推進しなければならない]。


日本原子力学会への期待

 首都圏住民は、日本原子力学会に対して、多様な役割を期待している。「正確なデータの発信」「原子力技術に関する知識の集約」「事故・トラブル時の評価」「科学技術の発展への貢献」「政策立案へのアドバイス」「海外との連携」に関しては、特に期待が高い。
 原子力学会員も多様な役割を期待しており、その期待度は首都圏住民よりも軒並み大きい。首都圏住民と原子力学会員の認識で大きなギャップが存在する項目としては、「原子力推進に対する抑止力」「原子力人材の育成」「原子力技術の継承」「原子力技術の世界的リード」が挙げられる。「原子力推進に対する抑止力」以外の3つに関しては、首都圏住民は原子力学会員ほどその役割を期待していない。一方で、「原子力推進に対する抑止力」に関しては、その期待が逆の傾向、すなわち、首都圏住民はこの役割を期待する側が多いが、原子力学会員はこの役割については学会の役割ではないと考えている。



調査票、単純・クロス集計、分析結果の詳細